ぼちぼちと都市に暮らす

住んでいる大阪の街についていろいろとかんがえてみる。

毎日新聞の218億円報道 その2

2020年10月26日に毎日新聞が「⼤阪市4分割ならコスト218億円増 都構想実現で特別区 の収⽀悪化も」と特別区に移行すれば、毎年218億円の財源不足が発生すると取れる記事を報道しました。つまり特別区に移行すれば、住民サービスを削らざるを得ないという世論誘導でしょう。

この数字は大阪市財政局が試算し公表したと公的裏付けを与えています。ところが僅か3日後の29日(木)の夕方に大阪市財政局長が緊急会見を開き、財政局自らが試算結果を「捏造した」と全面謝罪します。前代未聞でこのようなことが果たしてありえるのでしょうか?

ここで問題になった数字は地方交付税を試算する際に使用する「基準財政需要額」という数字です。なぜこんなややこしい誤解が生じたのか。地方交付税の計算式は総務省が定めており、その適用項目や補正係数は自治体規模や寒暖など諸条件によって異なってきます。巨大都市の大阪市と町村では、規模も事業内容もまったく異なることを考えれば当然です。

今回発表された「218億円」という計算結果は、大阪市の人口を4分割して現行の大阪市交付税計算を適用したものです。一部を除いてほぼすべて現状大阪市つまり政令指定都市の計算を用いています。なぜ218億円増えるかというと分割した場合には、今はひとつで済んでいるものが4つ必要になり、その分などのコストが増加するということです。しかし、住民投票で問われた特別区への移行コストは、初期費用が241億円、年間ランニングコストが30億円程度と副首都推進局が試算していました。

218億円が捏造とされた理由ですが、現在特別区があるのは東京都だけです。東京都は地方交付税不交付団体なので、国から交付金は出ていないのです。しかし、大阪市は交付団体ですから毎年交付金を受け取っています。

ではもし特別区に移行していた場合はどうなったかというと、現在大阪市が受け取っている交付金と同額(それ以上は出さないよ)が国から交付されるという仕組みです。4特別区をひとつの自治体として交付額を試算し、大阪府と合算して大阪府が国から交付金を受け取るという方式です。大阪府が一括して受け取り、それを他の収入を合わせて4特別区に調整して分配するというのが、都区財政調整制度ということになります。

今回大阪市財政局が出した218億円という数字は、法定協議会で議論され示された数字とはまったく別物でした。だから財政局長は自ら「捏造した」と謝罪した訳です。この謝罪会見が行われたのは、住民投票日のわずか3日前のそれも夕方でした。すでに218億円の数字が拡散され、独り歩きしている状態では、焼け石に水のようなものだったでしょう。

そして3日後の住民投票は、前回と同様に僅差で否決という結果を迎えます。

なぜ投票日の6日前にこのような有権者の投票行動に大きな影響を与える報道がされたのか?
なぜ反対派の市議会議員が毎日新聞記事の報道以前に218億円の具体的数字を知っていたのか?
なぜ大阪市財政局は捏造したと謝罪しなければならない数字を新聞社に与えたのか?
なぜ市長や副市長など大阪市のトップは知らなかったのか?

非常に不可解な事件ですが、投票日から12日後に読売新聞から驚くべき報道がなされます。https://www.yomiuri.co.jp/national/20201112-OYT1T50231/

毎日新聞記者は大阪市財政局の職員に、掲載前の原稿の下書き(草稿)を2度見せていました。管理人は新聞社のことはよく知りませんが、記者経験者の方からすると草稿を見せるなどありえないことのようです。毎日新聞は報道機関ではなく情報機関だという声さえ出ています。

もう投票は終わってしまい結果もでていますが、今回の住民投票は公正に行われたのかと言えば強い疑問を感じざるを得ません。SNS上では公職選挙法第148条違反との指摘もありますが、もし毎日新聞が違反認定されて罰則を課される可能性はあっても再選挙はないでしょう。

結果はどうあれ大阪の将来を大きく左右する市民の選択が、大阪市の1部局と数社の新聞社によって汚されたことは残念というほかありません。